※内容にも触れますのでこれから読む方はご注意ください。
この本は長らくネットで書かれていた小説だそうですが、恋風味多めに加筆修正し、小説として発売されたそうです。
初版は2022年6月15日となっていました。

和菓子が出てくる小説が読みたかったのですが、恋風味多いとあまり和菓子は出てこないのかと不安になりましたが、そんなこともなく。
むしろ一月単位の短編小説ということもあり、移り変わりの早い和菓子の世界でこんなに沢山の和菓子が出てきて季節の移ろいを細かく感じられることは珍しいと思います。
じゃああっさり話が進むのかというとそうでもなく、主人公の慶子や和菓子さまこと鈴木学くん、剣道部仲間の山路さん、福知くん、常盤さんなどなどそれぞれの心情にもしっかり触れられ、恋愛も進んでいくのが凄く心地いいです。
1年というのは学年の切り替わりだけでなく和菓子の移ろいも感じるので、1年間の変化を感じやすい高3を舞台にしたのも分かりやすくて良かったです。
日常の心地良さ、愛おしさをしっかり感じられる作品でした。
和菓子は日常に寄り添うものでもあるし、お祝い事や願いを込めて食べられてきたもの。
そういう誰かを想うもの、日常を彩るものは恋愛にも共通項があるので「あ、恋愛って頑張るものじゃないな」「季節の移り変わりをしっかり楽しめるくらい日常を心地よくしたいなぁ」と感じる作品でした。
慶子と和菓子さまは慶子がダクトから出てくる甘い匂いに釣られたことにより出会うのですが、実は和菓子さまは中学生の頃から慶子を知っていて。
和菓子さまの方がずっとずっと恋心を抱いていたのは先だったし、何なら周りもそんな空気に気づいて後押ししていたけど、慶子がなかなか気付かなかったなんて微笑ましい。
恋愛は女の子の方がやや鈍感だと思うんだよね。
こんなに分かりやすく牽制が色々あると周りは気付くのに本人は気付かないのはあるあるだと思います。
印象に残ったところをいくつか紹介します。
自分が食べているものが、東京で流通しているものが、すべて正解で当たり前なのだと、知らず知らずのうちに思っていると気づいたからだ。
(中略)
本物の柏餅なんてなかったのだ。誰にとっても、いつも食べる親しんだ柏餅こそが、本物だったのだ。それが、答えだ。
(48〜49頁)
慶子さんが従兄弟とのわだかまりが溶けるシーン。
これは柏餅の話だったけど、こういう視点を持てることで他者との関係性は円滑になっていけるので、慶子さんは聡明だと思ったシーンでした。
私も肝に銘じたいです。
目に見えない優しさや思いやりは、きっと誰もが想像するよりも多く、この世界にあふれている。
大切な人のために、なにができるだろう。
その切なる思いは、小さくても確かな輝きを持ち、誰かの大切な人を照らし続ける。
人が人を想う気持ちは尊く、強い。
(83頁)
和菓子さまの義理の母の言葉・想いと和菓子さまの言葉・想いに触れたシーン。
まだ慶子さんは和菓子さまへの恋心には気づいていない時ですが、7月で七夕の時期にそういう言葉が出るのは恋愛感情が生まれるのとこの先離れてしまうことへの暗示があってなるほどなぁと感じました。
「友情を馬鹿にしないで。少なくても、数年先までは男が入る隙なんかないの。ましてや、なんなの?関係性を築かぬまま、いきなり告白?プロセスを踏まずに、お姫様をゲットしようなんて甘い。キミは恋愛をなめている」
(中略)
気持ちを伝えたい。その思いは、慶子さんだってわかるつもりだ。人を好きになるきっかけはさまざまで、恋にもいろんな形がある。それを否定するつもりはない。
ただ、慶子さんの好きは違う。
慶子さんの好きは、交わされた言葉や、重ねられた信頼、友情。その先に、ようやく見つけた大切な気持ちなのだ。
(300〜301頁)
カギ括弧は常盤さんのセリフです。
常盤さんはモテてきているのであしらいも慣れているけど、これは実は慶子さん向けのアプローチをぶった斬るシーンなので、慣れてない・好意に気付かない慶子さんや慶子さんと和菓子さまの恋を守るための友情のシーンでした。
和菓子の塗り絵図鑑をパラパラ見た後ということもあって、作品に出てくる和菓子もとても分かりやすかったし、和菓子は本当に一期一会だなぁとも思う。
タイトルとしてついている『わたしと隣の和菓子さま』というのは和菓子がそのくらい身近ということも含んでいるのだろうけど、シンプルに高3の夏に1年間隣の席だったということと、当たり前のようにそばにいること。
でも近いのに遠いということ。
そして終章でまた章名として出てきて、あぁ良かったとホッとして。
応援してもらえたり祝福してもらえる関係性は、真っ直ぐ生きているからこそなんだなぁと思います。
日常って自分に真っ直ぐに、素直に生きていないと結構ずれてしまって、だから非日常や特別を求めるようになるんじゃないかなと思います。
和菓子が好きな人、じんわり甘い恋愛ものの作品が苦手でない方にはおすすめの作品です。
家族も恋愛も仲間も季節の移ろいも、人と自然の生きる道を楽しめる作品なのでとても心が温かくなりますよ。
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