ひろが語ると長くなる

本の感想書くために作ったはずのブログなのに割とながーく独り言呟いています。ストピや演奏の解説も当ブログで行ってます。

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【感想】革命前夜/須賀しのぶ

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春分の日の前日にあげたくて、どうにか間に合いました。
ネタバレ含みますので、

まだドイツが東西に分かれていた頃が舞台。
日本が平成になった辺りのドイツ(主に東ドイツ)を舞台とした須賀しのぶさんの小説です。
ピアノが表紙に出てきていたから思わず手にとったけど、
当時のドイツの空気感のようなものが伝わってきたので、サクサクとは読めませんでした。
でも読むのをやめられない小説、という感じでしたね。

眞山柊史(以下シュウ)が主人公。
ヴァイオリニストのヴェンツェル、イェット、ピアニストの李、ニェット、オルガニストのクリスタが主要キャラ。
クリスタ以外は同じ音大に通う者たち。
それぞれ違う国、違う立場の者たちが関わることにより、音楽だけでなく人生をも変わっていく話。

東西ドイツの話が出てくるからそりゃ社会情勢的な話も出るのだけど、
音楽とは?自由とは?人間とは?が問われていて、今の時代に通ずるものが沢山。
特に東ドイツの人たちは自由を求めて西ドイツを目指すのだけど、西に行けば完全に自由というのでもなく、
何を持って自由なのか、何から自由になりたいのかは考えさせられるところがある。
常に監視されること、近しい人にそれをされることはすごく辛いことだと思う。
でも、自由であるかを決めるのは、他でもない自分。
いついかなる時も自分であること。
人と比べず自分を生きること。これが自由ということなのだと最近思う。

最後の締めくくりがベルリンの壁崩壊だけど、革命というのはこういったわかりやすい形ばかりでなく、身近にあるのだろうなとも思う。
大きな変化の前にも必ず小さな兆候は出るのだから。

結局ヴェンツェルの事件の真相は闇の中だけども。
李やニェットを守ってくれたのだとは思うけど、イェンツがどうしてとどめを刺さなかったのか、ヴェンツェルが訴えないのかはわからないよね。
人情なのか、逆に罰しているのかはわからない。

人と関わることってすごく成長させてもらえたり、お互いの良さを生かしあえたりもするけど、時に傷つけあうこともある。
好きなだけじゃダメなこともあるし。
でも、本来の自分でいられたら、きっとお互いの良さを引き出し合えると思う。
明日からの春分の日は、それが大事になってくると思うから、
自分の良さを生かして、相手にも自分にも信頼し合える関係を築いていきたいと思う。

最後に、作中に出てきた音楽に絡む心にきた文章を引用しますね。

楽譜から読み取って、僕から生まれた音が僕の音。それが一番、難しいのに。
(123頁)

シュウが自分の演奏にもがいているときの心の声。
ピアノって楽譜を見たまんま弾けばいいというのでもなく、かといって独自解釈すぎるのも良くなく、難しいですよね。
でも、その人らしい音だから、その場でしか聴けない音だから心が揺さぶられるのだと思う。
これは人と比較したり競ってるうちには見つからないものかもしれないね。

イデオロギーは、言葉で形成される。それは本来、理性の分野に属するものだ。だから一度、過ちであったと否定されたなら、人は理性によってそれを封印することができる。
しかしそこに音楽が付随していたならば、そう簡単にはいかない。音は最も原始的なもにで、人の本能から生まれ、本能に突き刺さるもの。否応なく人を動かすものであり、だからこそあらゆる場面で音楽は使われる。
(185頁)

「否応なく人を動かすもの」というのは納得。
曲はわからないけど知ってるとか、ついつい口ずさむとかもあるし。
惹かれてしまうと否応なしに反応してしまったりするよね。

僕らは必ず一度、ばらばらになる。そうしなければ見えないものを、ひとつずつ拾い上げて、再構築しなければならないのだ。その覚悟がなければ、ただ押しつぶされて消えるだけ。
(262頁)

私はピアノではなく、自分自身のことでこんな経験がある。
自分を抑えて相手に合わせていたら自分が消えてしまいそうになった。
でも自分って何だろうって考えるきっかけになったし、再構築というか、本来の道に戻って自分を生きる覚悟を決めたから、今の自分がいるのだと思う。
だからその相手には感謝している。

自由とは必ずしも美しいものではありませんし、時に害悪ともなる代物です。ですが、知っておいていただきたいのです。音楽は自由な魂からしか生まれないということを。家畜となることを選んだ途端、その人間が作る音楽は、ただの雑音になるのです。
(285頁)

過激な言い方も含まれているヴェンツェルの言葉。
でも何かに流されると途端に音が変わってしまうのはちょっとした気分や体調不慮で音が変わる楽器ならではだと思う。
自由な魂でなくなることは、誰かに魂を明け渡すのと同じ。
そういう生き方はしてはならないのだと思う。

自由に生きるということは、他者と比較するのでもなく、他者に介入するのでもなく、勿論自分の人生を誰かに明け渡すのでもなく、ただ自分の魂を生きること。
自分の魂を生きて、仲間と共存していくこと。

明日春分の日を迎える今日は、ある意味で革命前夜。
明日から改めて、自分の魂の道を直向きに進んでいこうと思う。
もっともっと本来の私に戻って。

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