ひろが語ると長くなる

本の感想書くために作ったはずのブログなのに割とながーく独り言呟いています。ストピや演奏の解説も当ブログで行ってます。

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蜜蜂と遠雷

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10月4日に映画が公開された、恩田陸さんの大人気小説です。
第6回芳ヶ江ピアノコンクールを舞台に、出場する4人のピアニストの視点をメインに描かれています。

映画の公式サイトは以下から飛べます。
mitsubachi-enrai-movie.jp

今回は作中にも出てくる曲の、お気に入りの演奏*1を聴きながら書いてみることにしました。
湧いて出てきた言葉の勢いを大切にしているのでかなり偏った感想や私の考えの文章であり、読みにくい部分があることをご容赦願います。


↓目次↓

登場人物

物語の中心となるのは4人のコンテスタント。亜夜、塵(ジン)、マサル、明石です。

私の視点に一番近いのは亜夜ですね。
(勿論ピアノの才能に関してはかけ離れているけど)
なので、亜夜を眺めながら色んな思考を巡らせていました。

メロディを弾いている自分、プログラム構成を考えている自分、宇宙に漂う自分など、自分が幾つにも分裂してしまったみたいだ。(下巻88頁)

ここまでではなくとも、弾きながら想いを巡らせたり考え事しちゃうのはピアノ弾く人あるあるですよね。
亜夜はコンクールで自分が演奏しながらもやってしまうところが凄いのだけど。

私が今聴いている演奏は、集中して音を楽しむこともBGMとして作業をはかどらせてくれることも可能な凄い演奏です。
その音楽に身をゆだねて過ごす時間は癒しでもあり作業をはかどらせてくれたりもする。
音楽を楽しんでいる自分と冷静に分析している自分が同時に存在してしまう。凄く不思議です。
亜夜はその感覚がありながら、自分のピアノにちゃんとまとめ上げる力があるところが天才なんだろうし、亜夜の演奏を聴いていても色々想像させて楽しませてくれるんだろうなとも思う。

でも登場人物で一番好きなのは塵かな。

「僕ね、先生に言われたんだ。一緒に音を外に連れ出してくれる人を探しなさいって」(下巻25頁)

塵は彼の師であるホフマンの言葉を胸に行動しているわけですが、ピアノに対する固定概念がない塵だからこそホフマンが託したのだろうなと思う。
かわいくて分かりやすそうなはずなのに、自分の理解の範疇を越える塵。
私も塵みたいに生きられたらいいのに、と思ってしまう。

ピアノって自力で学んだりしても大体固定概念出来てしまうし、広まっている曲の解釈とあまりにかけ離れていてもただの自分勝手と受け取られることもあるし、そこが大多数の芸術の限界なのかもしれないけど、その限界を超えている人も存在するという安心感を与えてくれたのは塵だった。
確かに天才は存在して、どこかでひっそり生きているのかもしれない。
今この瞬間もどこかで素敵な演奏をしているのかもしれない。
それが誰かに向けての演奏でなくとも、自分のためにでも演奏しているのであれば、どこかホッとする。

マサルは天才肌だし、性格よさそうだし、きっと一緒にいて楽なんだろうな。
私は全力で甘えてしまいそうだ。
彼の性格だけでなくピアノも、全てが甘えたくなる雰囲気。
一般的には明石に対して甘えたくなる人の方が多数かもしれないけど、マサルならわかってくれるんじゃないかみたいな期待というか、もしかしたら邪な気持ちかもしれないけど、私はマサルとじっくり話して色んなこと感じてみたいと思う。
ピアノに関してだけでなく、色々語り合いたいと思える人。
マサルは一途だし。それだけ亜夜の才能を良く理解してあげられる貴重な人なのだけど。

明石は誠実で努力家だよね。
確かに他の3人と比べてわかりやすい天才肌ではないのと一般の人の感覚に近いとは思うけど、「春と修羅」のカデンツ*2の解釈に関しては天才たちがたどり着かない世界だと思う。
社会人経験のある人の弾くピアノはずっとピアノの世界にいる人の音とは違うと思う。
一般的な世界の楽しさや苦労が詰まった音は今回のコンテスタントで言えば明石しかいないし、明石は恐らく今の世の中にそういるタイプでもないから明石は興味深いし、こういうピアニストが出てくれたらいいなとも思う。

あぁでも、嫌いな登場人物いないんだよね、この作品。凄く、いいですね。
皆それぞれに葛藤して、自分を見つめて答えを見つけて、ちゃんと進んでいくところに安心感を覚えます。
その瞬間瞬間で別人のように変わる様は凄く面白い。
でもその成長のスピードが理解できない範疇に入ってしまうと、恐怖心を与えるのかもしれないけど。

ピアノって面白い

私はまだ映画を見ておらず、映画も気になるところですが、小説を読みながらそれぞれの登場人物の演奏する曲の好みの演奏を探して聴きながら読むのも凄く楽しい作品だと思いました。
(というか、あれこれ想像を巡らせすぎたからこそ映画の伏線回収とか表現に物足りなさを感じてしまう可能性が高いかもと思って、逆に映画観に行くの怖くなったり。)

演奏に対して感じ方が人それぞれなのと同じで、作品や登場人物に対しても読み手により色んな考えが出ると思います。
曲のスタンスも、ピアノに向かう気持ちもそれぞれ違う。だからピアノって面白いんですよね。
人の生き様をピアノを通じて感じる。その生き様も受け手によって解釈が変わる。
それでいいのだと思います。
ピアノやピアニストを枠にはめた瞬間に終わってしまうし、いかにピアニストは自分の個性をはっきりさせつつも枠にハマらないよう、他人に媚びすぎない様するかが凄く難しいところ。

コンサートやコンクール、発表会だけでなく、ストリートピアノであったり自宅のピアノに向かう姿でも人それぞれ違うところがあるということ。
良い悪いではなく、色んな考えがあるという事。
私が実際にコンサートやストリートピアノに行ってみて感じたことです。
「色んな人がいて、色んな楽しみ方をしているけど、じゃあ自分はどうしたい?」という問いが出てきて、答えはその都度変わっていったり(その場の空気や演奏によって受ける影響も変わるし)、ピアノから離れている時間に感じることが違ったり。
日々自問自答。
でもそうしているのが凄く楽しくて。
誰にも邪魔されず色々思考を巡らせてくれる場をくれるから、私はピアノが好きなのかもしれません。

聴くのは楽しい。でも弾けたらもっと楽しい。もっと表現したい。自分の音楽を、生き方を追求したい。
そういうワクワクさもこの本は与えてくれますね。

ヤマハとのコラボ

私が「蜜蜂と遠雷」を初めて知ったのはLove Piano*3の3号機がきっかけでした。
残念ながらタイミングが合わず、ピアノを弾くことは叶いませんでしたが、本の表紙の柄が再現されているかわいらしいピアノでしたね。
(と言ってももしかしたら今後また何処かで会えるかもしれないけど)

番組やお店が映画の作品とコラボすることは多々ありますが、ピアノ自体がコラボする時代となったのが今風ですね。
それだけ日本でストリートピアノも定着してきたんだなぁと思います。
日本のストリートピアノは外国と比べて独自の文化や流れがあると思いますが、生演奏に触れる機会だけでなく演奏を観る・聴く機会が増えたのは凄く良い事だとは思います。
勿論弊害もあるとは思うけど、ピアノが好きならばちゃんと改善していけるはず。
でも色んな意見があって平行線になることがあるのも仕方がないとも思う。

9月に3号機が渋谷に来た際、さなゑさんたちストリートピアノガチ勢の皆さんが映画に因んで次々連弾していく動画も弾き手の個性が出ていて面白いので、ご紹介します。

【百合連弾】映画『蜜蜂と遠雷』より 月夜の連弾シーンを再現してみた【蜜蜂と遠雷仕様LovePiano(ストリートピアノ)】
※「蜜蜂と遠雷」の作品と関係ない曲も出てきますし、「蜜蜂と遠雷」にはない百合のシーンを想像させるサムネもあり苦手だと感じてしまう方もいらっしゃるとは思いますが、仲間と紡ぐ音楽もいいなぁと感じさせてくれるガチ勢ならではの動画で私は結構好きです。
ガチ勢メンバー全員ではないものの、直接会って話をしたことがある私だからこそ感じる事なのかもしれませんが。

ピアノがつなぐ縁

ストリートピアノの普及により、今年になってピアノが沢山の縁を運んできてくれました。
私のピアノに対する向き合い方もまた一歩進めたと思います。
それは私の先生の指導の熱が変わったことからもよくわかります。

演奏というのは面白いもので、演奏する側だけが影響を与えるのではなく、聴衆からも影響を受けます。
場の空気に飲まれることもあれば、演奏側の緊張を聴衆が受け取って倍増させてしまうこともある。
その逆で演奏側が場の空気を制圧してしまうこともできる。同じ人が同じ曲を演奏してもその日その日で変わる。
だからその場その場で感じる空気が凄く楽しいですよね。
私たちは思っている以上に人から影響を受けたり与えたりしているのだなと思います。

蜜蜂と遠雷」を通じてもきっと沢山の出会いをもたらしたと思います。
その縁をどう生かすかは自分次第です。

蜜蜂と遠雷」はCDや楽譜等タイアップ商品沢山出ていますが、明石のCDを担当した福間洸太朗さんってフィギュアスケートファンにも割と知られていますよね。
確か、空港でステファン・ランビエールさんに声かけたんだよね。それがきっかけでコラボもして。
スイスでのコンサートを宇野選手や島田選手達が聴きに行ったり。
素敵ですね。
縁を繋ぐためには必ず自分からのアクションが大事ですね。
勿論そのアクション次第で壊れてしまうこともあるけども。

お礼

あまりに言葉が出すぎたためかなりの長文となりました。
貴方の貴重な時間を割いて読んでくれたことに心から感謝申し上げます。

本作のスピンオフ作品である「祝祭と予感」も発売しています。
そちらの感想も書いてみました。
hirobook.hatenablog.jp

蜜蜂と遠雷」のおかげで音楽とゆっくり過ごしながら思考を巡らせる時間が作れて、本当に幸せでした。
ありがとうございました。


小説とはいえ散々人の演奏の批評を載せたので、おまけ程度に自分のも載せておきます。


【美術館ピアノ】亡き王女のためのパヴァーヌ(Full ver.)を弾かせてもらった【ヤオコー川越美術館】

ストリートピアノだと演奏時間は5分が目安になると思いますが、この日の美術館ピアノは他に誰もいなかった為、ラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌをフルバージョンで弾きました。
美術館のスタッフさんにパヴァーヌ好きな方がいるので、喜んで頂けて嬉しかったです。

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*1:お供の曲:ショパンスケルツォ3番他

*2:一般に、独奏協奏曲やオペラ等のアリアにあって、独奏楽器や独唱者がオーケストラの伴奏を伴わずに自由に即興的な演奏・歌唱をする部分のことである。出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

*3:ヤマハがペイントピアノのLove Pianoを全国様々な場所に提供し、開催しているストリートピアノです。現在4号機まであります。