※作品内のことも触れます。これから読む方はご注意願います。
桜が満開になった頃に本屋さんでピンときて購入しました。3月の新刊だそうです。
人の想いの素敵さを沢山感じた小説でした。
人の感情が音として聴こえる香澄とピアノの道を諦めた亮介の恋愛ストーリーです。
脚本家の方が書いた小説ということで、確かに映像作品にしやすそうな雰囲気の小説でした。
小説には当然画像も音もないけど、実際に映像を観ていてその場で色んな曲や音が聴こえてきているような感覚になりました。
亮介がコーヒーショップで働く香澄に一目惚れをしたところから始まるけど、実は中学生の時同級生で、その頃から淡い気持ちがあった2人が主人公です。
運命の相手を音を介してというのは面白いテーマだと思うけど、確かに人ってなんとなく醸し出すその人らしさに惹かれるし、声が好きというのもある意味音だからこういうこともあるのかもしれないなぁなんて思ったり。
そして現代人は日々忙殺されて生きているので音が怖いというのはわかる気がする。
親と離れている時間が多いし、1歳頃から子供も乱れてくるというのも現代ならではなのかもしれないですね。
勿論ピアノを弾く全ての人の心が澄んでいるわけじゃないので亮介は純粋な人かもしれないけど、香澄にとっての運命の人だから心地いいのかもしれないですね。
感情を音として聴けなくても何と無く考えていることが伝わることもあるけど、表面上それを悟られたいとしててもわかっちゃうってそりゃ生きていくのに大きな支障だよなぁと思うけど、でもその能力のお陰で本当に大切な人を見つけられたのは香澄にとっては幸せなことだったと思います。
お互いがお互いを想う気持ちがとても優しくて、
亮介の思いやる気持ちは
人を好きになるのは不思議だ。自分の好きなものを相手に分けたくなり、彼女の好きなものをおすそ分けしてほしいと思う。そして相手の辛さを半分受け持ちたくなる。
(109頁)
と、香澄に別れを告げるシーン(298頁)から感じました。
別れを告げるシーンは大切に想っているのが伝わるからこそ辛くもあり、想いの強さも感じ取って思わず泣いてしまいました。
香澄側の思いやる気持ちは
緩やかで温もりを感じる旋律は私を包み、雑音の世界から穏やかな世界へと連れ出してくれる。それは私が随分前から求めていた世界で、どこにも存在しないと思っていた世界だった。でも、それを彼は易々と超えてくる。
(中略)
早く気づいて欲しい、あなたの音は人を幸せにすると。
人を優しく受け止め、幸せを与えると。
そしてそれは、あなた自身も求めているのだと。
(282頁)
が凄く素敵でした。
お互いをずっと思い合っているのが伝わるのに、お互い傷があって言えないことがあって。
それも相手を想うからこそ言えないこともあって、好きな人に嫌われたくない気持ちや好きな人に傷を掘り起こされたら生きていけないという想いの強さを感じました。
とはいえ、音が聴こえても聴こえなくとも、人はすれ違うこともあれば誤解を生むこともあります。
亮介には城内が、香澄には久米先生に玉ばぁというお互い相談できる人がいて良かったです。
本音をぶつけても受け入れてくれる、言えないのを察して無理に押し付けないでくれている、これも本当に相手を大切に想うからこそできることだと思います。
香澄は感情の音が聴こえる性質があるけど、ピアノを学んでいた亮介なので音に色をつけるということに関して触れられているシーンがあるんです。
弾き手がつけた色は、聴き手が想像したものではないかもしれないけど、色があるだけで、曲はいかようにも美しさを表現してくれる。
それが先生の持論だった。
(166頁)
音に色を付けるというのは私もピアノの先生に似たような話を聞いたことがあるんですよね。
綺麗な音を出すにはどうしたらいいですか?という漠然とした問に
・出したい音をイメージする。色でもいい。同じ水色でも絵の具そのままのものか水を沢山含むものか。
・その音が出せているかを聴く。
と教えてもらいました。
でも全く同じ色を想像したとして、弾き手によって変わるのがピアノの面白いところ。
私もピアノのレッスンお休みして久しいけど、最近弾いたらやっぱりピアノ好きだなぁって思いました。
亮介のように人に求められるような演奏ができるタイプは、香澄のように大切に思う人なら尚更弾いてほしいって思うのだろうし、大切な人がそう思ってくれるって嬉しいですね。
文庫本なので買いやすく、文章も読みやすいです。
春の時期は過去の思い出も出やすい時期ですし、素敵な思い出もそうじゃない思い出もこの本を読んでいるうちにきっと昇華していけるはず。
色んな想いを胸に、でも辛い想いはそっと手放して、前を向いて生きていこうと思えた小説でした。
★ちょっとおまけ
作中に出てきて、ここかな?と思ったお店を載せておきます。
・カキモリ
kakimori.com
オーダーノートを大切な人とお互いをイメージして作るのいいなぁって思いました。
カフェはどこかまでは土地勘がないこともあってわかりませんでした。
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