私が集めているシリーズものの小説の1つが「岬洋介シリーズ」です。
今作凄く好き。歴代で一番かな。
↓もくじ↓
シリーズ5作目
語り手はそれぞれの作品により違うけども、共通しているのは岬洋介が事件を解決していくことと、タイトルについている作曲家の曲が沢山出てくるところ。
・さよならドビュッシー
・おやすみラフマニノフ
・いつまでもショパン
・どこかでベートーヴェン
ときて、シリーズ5作目です。
(プレリュードは除いています)
さよドビ~いつショパまではピアニストなった後の話で、どこベトが高校生の頃の話と過去の話に戻ります。
今作の語り手(目線)は岬洋介の司法修習生の同期である天生高春(あもうたかはる)です。
お帰り、岬洋介
容姿端麗、性格もよし(ちょっと天然)、頭も良いという非の打ち所のない岬洋介。
特にピアノの才能が素晴らしいのですが、前作どこベトで突発性難聴を発症し、ピアノの世界から離れました。
でも、
「もう、自分を偽るのは金輪際やめにしたいんです」
(250頁)
という言葉を発したように、ピアノの世界に、ピアニストとして戻る決断をします。
法曹界のみならず岬洋介ならばどこでもやっていけるけど、今作でコンクールで演奏している時の描写を見るとやっぱりピアニストとして生きる人で、ちゃんと道に戻るように出来てるんですね。
「もう二度と後悔はしません」
(306頁)
これだけの覚悟が決まっていれば、どこでも、どんな状況でもやっていくのでしょう。
(他のシリーズを見ていたらそれは明らかですが)
岬洋介はソナタ8番「悲愴」でピアノから離れ、ソナタ32番で戻り、ソナタ21番「ワルトシュタイン」で覚悟を決めた。
今年はベートーヴェン生誕250周年。
私は変化のある前触れとしてベートーヴェンの曲を弾きたくなることがありますが、岬洋介もベートーヴェンを弾くときは転機が訪れていました。
悲愴では本当に悲しい思いをしたけど、払拭できてよかった。
そもそも「皇帝」で火がついたあたりが正しくピアニストなのだけど。
天職のキーワードは幸福、癒し、祝福
今作はこれから進路が決まる司法修習生たちの話も大きく関わるため、仕事というか、いわゆる天職って何だろうということも考えるきっかけとなります。
仕事の価値は自分以外の人間をどれだけ幸福にできるかで決まるのだと
(中略)
権力を手にしたのなら、行使する際には多数の利益と幸福を念頭に置くべきなのだと。
(90頁)
上記引用は高遠寺教官の言葉ですが、何でもそつなくこなす岬洋介が押し殺している感情を見抜いていたのでしょう。
ピアノから離れていた5年間。
きっと色んな感情を押し殺して。
ピアノに、クラシックに、かかわらないようにして。
その5年間は見える世界が全然違っていたのかもしれません。
たとえ犯罪者をどれだけ厳しく罰する法律ができたとしても、傷ついた人たちを癒すことはできません
(109頁)
岬洋介は法の限界を説きます。
勿論裁く人間も必要で、そういう職に適性のある人もいます。
でも岬洋介の天職ではないんですよね。
彼は癒す側の人間ですから。
風貌もそうだけど、彼の奏でるピアノは人の心を揺さぶります。
ピアノの上手い人は数多くいるけど、心を揺さぶる演奏が出来る人は少ないです。
(勿論それ程上手くなくても心を揺さぶる演奏をする人もいます。)
彼はピアノを弾くために生まれた人間。
これが音楽が持つ支配力だ。耳から入る情報だけで人の感情を操り、気分を変え、体調さえ統べる。そんな芸当が可能なのは魔術くらいだが、ミューズの祝福を受けたピアニストは平然とやってしまう。
(286頁)
コンクールの演奏でこれです。
コンクール会場をコンサート会場に変えてしまう。
技量を問われる演奏が多いから迫力に戦くことが多いけど、綺麗な曲ならば物凄く癒しの効果はでますね。
いつショパはラストがそのような展開だったし。
勿論こんな大々的な天職でなくとも、誰にでも天職はありますよね。
華々しく表に出る人がいれば、ひっそりと支える人もいますから。
天職は幸福、癒し、祝福と何かしら相手の心や体を解きほぐすことのできる何かなのかなとも最近思います。
今は自分の花を咲かすチャンス
自分が好きなことで生きていくことは大変かもしれません。
お金も稼がなきゃならないから。
でも生きていくための最低限のお金を稼ぐことよりも、好きなことを我慢していく人生の方が大変だったりします。
本当に好きなことや人を忘れることは出来ないから。
今のような外出自粛期間中だと本当にやりたかったことが見つかる人も多いのではないでしょうか。
始めるなら今がチャンスです。
勿論何かを買ったり外でしかやれないこともあると思うけど、今のうちにやれることをやって準備しておく。
そうすれば、岬洋介程の大輪の花でなくとも、自分の花をきちんと咲かせられます。
私も自分の意志でピアノをまた弾いていて、こうやって文章も書いていて。
今凄く幸せです。
寂しい気持ちも少し抜けてきました。
自分の好きを大切に、岬洋介のように自分を偽らず生きていきます。